平成20年(ネ)第1189号 債務不存在確認等請求控訴事件
控訴人 佐々木香徳
被控訴人 和歌山県行政書士会、日本行政書士政治連盟和歌山県支部
大阪高等裁判所 第8民事部御中
平成20年5月15日
控訴人 佐々木香徳
控 訴 理 由 書
頭書の事件について、控訴の理由を述べます。
原判決には、以下のとおり、審理不十分、事実誤認、法的判断の誤りがあります。
1.審理不十分
原判決には、次の3点につき、審理不十分がある。
(ア)甲24〜33号証および準備書面(6)について
控訴人は、和歌山県情報公開制度に基づき、平成19年10月16日に、被控訴人日本行政書士政治連盟和歌山県支部(以下、「県政連」という)の平成18年分収支報告書を入手・分析して、同年11月19日に甲24〜33号証および、準備書面(6)を原審に提出した。
控訴人は、@県政連の財政が平成17年から急速に悪化し2年連続で単年赤字に転落した事実、A従来の繰越金を食いつぶした事実を明らかにし、B県政連が平成20年度から会費を値上げした事実と合わせて、県政連が、和歌山県行政書士会(以下、「県書士会」という)からの“隠れた寄付”(必要経費の肩代わり)なくして運営できない実態を、換言すれば、県書士会と県政連との癒着の実態を、被控訴人自身の公式文書に記載された数字で論証した。
本来、原審はこれらを十分に吟味したうえで判決を出すべきであった。原審の矢田裁判長は、平成19年11月の段階では「いろいろ新しい論点を出してくれたねえ。もう一度弁論準備をやらんといかんねえ」と語っていた。
ところが、その言に反して原審は、弁論準備を行わず、被告らに認否を求めることすらしないまま、12月20日に一方的に結審を宣告し、本年3月に判決を下したものである。
(イ)事務員の証人尋問について
県書士会が雇用する事務員が、県政連の事務を代行している事実がある。この事実自体には、当事者間で争いがない。
原審において控訴人は、県政連の人件費負担額が少なすぎることを立証するため、事務員らが実際にどの程度の労務(量・質)を県政連に提供しているかにつき、事務員松本の証人尋問を求めた。しかし原審は、これを認めず、書証および被控訴人らの役員の証言だけを元に判決を下した。
しかし、役員らは、会長であれ総務部長であれ、各自の事務所の経営者であり、毎日朝から夕方まで県書士会事務所に詰めているわけではない。会に用事があるときだけ、県書士会事務所に立ち寄り、その用事が済めばすぐに立ち去るのである。(高川証人の証言)
従って、平常時において両団体にどれだけの事務量があり、それを何時間かけてこなしているのか、各種選挙が近づいた時には県政連の事務量がどの程度増えるのか、厳密に区別されるべき両団体の経理が、実際にどれほど厳密に処理されているのか…、などの詳細点については、現場の事務員本人しか知り得ない。
原審における役員らの証言は、事務員からの伝聞を自らに都合よく述べただけであり、真実性の担保がない。事務員の直接尋問なしで、県政連からの事務負担額が適切か否か、などについて、予断を排した客観的な判断などできるはずもない。
(ウ)訴えの拡張申立ておよび弁論再開の申立てについて
控訴人は平成19年11月19日、@会員権停止処分等の無効確認、A県書士会会員数と県政連会員数をどちらも375人である(即ち、控訴人も県政連会員である)と発表した事実に対する慰謝料請求、の2点を内容とする、訴えの拡張申立てをした。しかし、この申立てに対する審理は行わなかった。
その後、控訴人と被控訴人側との間で、別の訴訟(田辺簡裁平成20年(ハ)第15号、和歌山地裁田辺支部平成20年(ワ)第58号)も起きたため、控訴人は、本事件の弁論を再開し、これらの事件とともに一括して審理するよう申し立てた。
この際、書記官が教えてくれたのは、「弁論を再開すると年度内に判決ができない。年度をまたぐと3人の裁判官のうち誰かが異動になるので、弁論再開は考えていない」ということであった。
これが真実なら、原審は、公正な判断よりも事件処理の効率を優先したことになる。仮に、原審において、これらの審理が十分に行われていれば、判決内容は違っていた可能性がある。
実際のところ、控訴人は原審で、あれもこれもと論点を広げすぎた感は否めない。この反省に立って、控訴するに当たっては論点を絞り、無効確認を求める金額も、立証が比較的容易だと思われる範囲にとどめた。御庁においては、地裁では不十分に終わった審理を、十分に尽くしていただけるよう、切に希望します。
2.事実誤認
原判決は、「県書士会から県政連へ寄付がされていたと評価すべき事実関係は認められない」と事実認定したが、これには次の誤りがある。
(ア)事実認定の基準自体を、より厳しくすべき
原判決28頁、「第3 当裁判所の判断」 1 請求の趣旨第1項について(4)で、原審は、「被告県書士会が徴収している会費の一部が被告県政連に寄付されていると評価すべき事実関係は認められない」とした。しかし、この認定には異論がある。
原審の言う、「二つの組織があるとき、事務所の場所や人員を截然と分けるのが望ましいことはいうまでもなく、…県書士会と…県政連との関係は、原則として、できる限り経済的にも人的にも明確に区別されるべきである」の部分は納得できる。「区別されるべき」の根拠について原審は明言していないが、事柄の性質上、憲法19条によるものだと控訴人は理解している。
そうであれば、単に「両者の事務量等に応じた費用負担がなされているかどうか」だけを唯一の判断基準として、「県書士会から県政連への寄付は無い」とした事実認定は、その判断基準自体が誤りだと言わざるを得ない。
確かに、原審の言う判断基準は、双方の団体が営利法人である場合(例:親会社Aの従業員が子会社Bの事務にも従事している場合や、株式会社Cと株式会社Dが同じ建物に入居している場合)には、合理性がある。
しかし、本件の場合、一方は公共性の強い特殊法人で、他方は公共性ゼロの政治団体であるから、双方が営利法人の場合とは違った、より厳しい判断基準があってしかるべきである。即ち、「原則に従って、県政連の事務所や人員を県書士会から分離した場合の費用負担との比較」を加味して、判断基準とするべきである。
詳細は、準備書面で主張するが、県政連事務所を分離し、独自の事務員を雇い、電話代や光熱費を払ったと仮定し、必要経費を概算することは容易である。
家賃4万円、人件費8万円、電話・光熱費1万円(いずれも月額)と見積もり、月に13万円、年間156万円程度は、固定経費として必須である。県政連の年間収入は130〜140万円程度だから、固定経費にも満たず、政治献金原資として年間90万円も中央(日本行政書士政治連盟本部)に上納することは絶対に不可能である。
ところが、県政連が年間90万円を現実に上納できているのは、県書士会事務所に同居し、固定経費の大半を浮かせているからである。この状態が何年も続いているので、県政連は、それを前提として予算を組み、会費を設定している。
つまり、県書士会が県政連に対して積極的に年間90万円を寄付しているのと同じ結果が生じており、この結果との比較を判断基準に加えて、「県書士会から県政連へ金○○万円程度の寄付が存在すると評価できる(同視できる)」との事実認定を行っても不思議ではないし、そうすべきである。
(イ)県政連負担額の過少は明白
原判決26頁、「第3 当裁判所の判断」 1 請求の趣旨第1項について(3)で、原審は、「被告県政連は被告県書士会に対し負担金という名目で経費の支払いをしており、その事務の実情に照らし、その金額等が不当に少ないとはいえない」と判示した。
これは、上記の「両者の事務量等に応じた費用負担がなされているかどうか」だけを基準とした、いわば「甘い」基準にもとづく事実認定である。
しかし、県政連から県書士会への費用負担額は、この甘い基準に照らしても、著しく少額であり、「不当に少ないとはいえない」とする認定は誤っている。
特に家賃について、原審は、平成14〜16年度の3年間、県政連が1円も負担していなかった事実を認定したにもかかわらず、このような結論になったのは、承服しがたい。
(ウ)“ニセ領収書”を不問にした
原判決28頁、「第3 当裁判所の判断」 1 請求の趣旨第1項について(3)で、原審は、「前掲各証拠及び弁論の全趣旨から、被告県政連が被告県書士会に被告ら主張の負担金を支払ったことが優に認められるというべきである」と判示した。
しかし、それら証拠(領収書等)の中には、その真実性を疑わせる重大な事実が存在するのに、原審はそれを軽視し、「不合理で虚偽であるとまでいうことはできない」と結論したのは誤っている。
3.法的判断の誤り
原判決には、法的判断の誤りがある。
(ア)違法支出が会則無効に直結しないという判断
原判決25頁以下、「第3 当裁判所の判断」1 請求の趣旨第1項について(2)で、原審は、「被告県書士会の被告県政連への支出行為が違法であるとしても、…無効となるのはあくまで当該支出行為自体であって、…県書士会の会則及び別表の定めが直ちに無効になるものではない」と言う。
平たく言えば、県書士会会則に“当会の会費は、政治連盟への寄付分を含めて月額6000円とする”とか、“会員は、一般会費のほか、政治連盟に寄付するための特別会費を払わなければならない”などと明記していれば無効となるが、そうでない限り、目的外使用が存在しても、会則の規定そのものは有効であり、当然、会員は全額支払義務を負う、というものである。
仮に、県書士会から県政連への支出(寄付)行為が、高額で、回数が限られ、立証も容易な内容であれば、原判決は妥当かもしれない。支出(寄付)行為に不満のある会員は、最終的に訴訟を起こし、その行為の違法・無効を主張するという手段が可能だろう。(実際に兵庫県行政書士会を相手に訴訟になり、明確に違法だとする判決が出た。神戸地裁尼崎支部平成17年(ワ)第1227号事件)
しかし、本件の場合、県書士会から県政連への支出行為は、「県書士会から県政連に金○○万円を交付する」という積極的な形態ではなく、「本来請求すべき金銭を請求しない」という不作為=消極的な形態をとっている。しかも、少額のものが日常的・恒常的に数年・数十年にわたって行われている、という特殊性がある。
このような少額かつ多数の不作為を、いちいち訴訟に持ち込むことは、不可能である。
例えば、某年4月1日午後3時6分から3分間、県政連役員Aが県政連会員Bに対し、県書士会の電話を使って政連会費納入の催告をしたのに対し、県書士会職員は通話料8.5円を請求せず、県書士会に同額の損害を与えたので、県政連に非加入の書士会員が、当該不作為の違法確認を求めて提訴する、などということは、およそ非現実的であり、そもそも立証が不可能である。
原判決は、このような特殊性を見ない判決であり、妥当ではない。加えて、原判決の論理では、違法な支出行為があった場合に初めて、事後的に是正が可能になるにとどまり、違法な支出行為を予防することにならない。訴訟は実質不可能なのだから、不正・違法な支出もフリーパスとなる結果を招来する。
「訴訟が不可能」との論点で付加すれば、行政書士法には、商法・会社法における株主代表訴訟(旧商法267条、会社法847条ほか)や地方自治法における住民訴訟(242条の2、特に同条1項1号による差止請求)のように、執行部の責任追及のための訴訟を認める明文規定が存在しない。
このため、行政書士会員が執行部の責任追及の訴訟を起こすには、民法の一般ルールによるほかなく、原判決の論理では、執行部のやりたい放題を放任するに等しい。県書士会から県政連へ、少額の不作為的な支出が多数回・恒常的に存在する本件のような場合には、事後的に違法を是正させる司法的手段は事実上存在しないのであるから、その特殊性を加味し、違法な支出行為を予防するために、会則の規定自体を無効とすべきである。
さて、原判決における当該判断は、平成19年10月12日付被告準備書面(3)の主張内容を、そのまま採用したものである。被告らは、初期の弁論ではこのような主張をせず、10月に初めて追加してきたので、前記尼崎支部判決(平成19年7月17日)を真似たものと思われる。
ところが、前記事件と本件とは、一見似ているようで実は大きな違いがある。その違いとは、「多額、少数回、積極的な寄付」か、「少額、多数回、消極的な寄付」か、の点である。この違いを無視して、“借り物の理屈”をそのまま適用した原判決は、少なくとも本件には妥当ではない。
(イ)不法行為(精神的損害)は成立しないという判断
(a) 「議決なき寄付」の項目
原判決29頁、「第3 当裁判所の判断」3 請求の趣旨第3項について(1)(2)で、議決なき寄付を継続したことで26万円相当の精神的損害を被ったとする原告主張に対し、原審は、“そもそも県書士会から県政連への寄付があったとは認められないから、原告の主張には理由がない”と判決した。これは、前記2の通り、誤った事実認定から引き出された結論であるから、見直しを求める。
(b)笠野氏による名誉毀損発言に関する項目
原判決31頁以下、「第3 当裁判所の判断」4 請求の趣旨第4項について(2)アで、原審は、“笠野の発言から直ちに県書士会に法的責任を問うことはできない”、さらにイで“笠野の発言内容自体も名誉毀損ではない”と判決したが、見直しを求める。
なぜなら、県政連に入会しない、あるいは県政連会費を払わない行政書士が何人いようと、別団体たる県書士会の会長を選ぶのに何の関係もない。県書士会は、笠野氏の選挙公約を見て、「この公約は会長選挙に無関係な内容を含んでいる。しかもその内容は、県政連非加入の会員の名誉を毀損し役員選任規則35条違反の可能性がある」と指摘して是正させることが必要であったのに、それを怠った違法があるからだ。
また、笠野氏の発言内容は、明らかに名誉毀損である。控訴人1人に対する名誉毀損というよりも、控訴人を含めた県政連非加入の行政書士「数名」を狙い撃ちした攻撃・名誉毀損である。
(c)「県政連の文書送付・県政連会員扱い」の項目
原判決32頁、「第3 当裁判所の判断」4 請求の趣旨第4項について(3)で、原審は「このような文書が数回送付されてきたことが直ちに強要と評価されるものではない」と判決した。
「直ちに」との限定が付いており、“度が過ぎれば強要になりますよ”という含みを残しているものの、この結論には納得できない。
そもそも、「強要となるか否か」だけが焦点ではない。
控訴人にとって、県政連なる特定政党支持団体が、強制加入の県書士会から特別扱いを受けながら存在すること自体が不愉快である。まして、入会面接時に明確に加入拒否したのを無視して、そのような団体に当然加入したものと扱い、“お願い文書”を何度も軽々しく送付すること自体が、控訴人の感情を害し、思想信条の自由を侵害する行為である。県政連には、そのような諸々の行為が他人の思想信条の自由を侵害することのないよう注意すべき高度の義務がある。
つまり、被控訴人の行為が、強要とまでは言えない場合であっても、注意義務違反を認定して不法行為の成立を認める余地はあり、控訴審ではその検討を求めるものである。
次に、前記1(ウ)で述べた通り、控訴人は、自身が県政連の会員であるかの如く県書士会の会報で発表された事実に対して、損害賠償請求をしたが、原審はこの点につき審理しなかった。
この発表は、被控訴人らが「和歌山県内の行政書士で政治連盟に入らない者はいない。加入率100%だ」と、会の内外に誇示したことを示している。ここには、「県書士会員イコール県政連会員」という、両団体幹部の本音と、県政連に加入せず、あるいは途中で脱退することを認めないという認識が如実に現れている。同発表は、政治連盟に入らないで行政書士として活動することを信条とする控訴人の精神的自由を否定する行為である。少なくとも上記注意義務違反がある。
この点につき、被控訴人らは「便宜上同数にしているだけ」(判決文23頁)などと言い訳したが、会員の思想信条より「便宜」を重視する態度であり、被控訴人らが各会員の思想信条の自由について、いかに配慮に欠け、軽視してきたかを露呈している。
控訴審では、これらの点の審理を求めるものである。なお、請求金額としては、(a)〜(c)各項目の合計で金20万円とする。
以上
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