第3 当裁判所の判断
1 被控訴人らの癒着について(争点1)
(1)前提事実並びに証拠(甲1〜6,8,9,11,12,17〜22,24
〜26,37〜4・1,乙6,12〜22,証人高川泰延,控訴人本人)及び
弁論の全趣旨によれぱ次の事実が認められる。
ア 行政書士会は,会員の品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,
会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として,各都道府県に
1箇ずつ設立することを義務づけられた法人であり,全国の行政書士会に
より設立された日本行政書士会連合会(日行連)は,行政書土会の会員の
品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,行政書士会及びその会員
の指導及び連絡に関する事務等を行い,行政書士の業務を行うためには日
行連に備える行政書士名簿への登録が必要であり,登録を受けた行政書士
はその事務所の所在する都道府県に設立された行政書士会の会員となり,
行政書士事務を継続する間,強制加入団体である行政書士会からの脱退の
自由を有しない。
イ 被控訴人書士会は,平成18年11月末日現在373名の会員を擁し
(うち2名は廃業勧告対象者),その財政は会員から納入される会費で賄
われているところ,現在の会費は,月額6000円,会則に違反した会員
に対し必要な処分(訓告,1年以内の会員の権利停止,廃業勧告)を行う
ことができ,会費滞納者に対して廃業勧告を行うときには,会費納入の催
告,綱紀委員会による業務継続の意思確認の手続を経ることとされている
(会則90条の5第1項,2項)。
被控訴人県政連は,被控訴人書士会に加入している個人会員をもって構
成される組織で,政治活動を行うことを目的に日本行政書士政治連盟(日
政連)の下部組織として政治資金規正法に基づき届出された任意加入の政
治団体であって,行政書士制度の充実発展を期するための政治活動等を行
うことを事業内容としており,平成20年3月まで月額400円,同年4月から月額
600円の会費を徴収し,平成18年時点で少なくとも約370名の会員を擁しているが,
会員資格の定めが明確でなく,独自の会員名
簿を作成しておらず,被控訴人書士会会員のうち15名が被控訴人県政連
への入会を拒否して会費支払いを拒絶し,50名ないし100名の被控訴
人県政連会員が会費支払未納や延滞をしており,会務の運営上,被控訴人
書士会との区別が明確でなく,トップ役員である支部長が同書士会会長,
副支部長が同書士会副会長等,同書士会の役員がほとんどがそのまま役員
となっており,同書士会の事務所内にわずかな専用物品を置き,同書士会
の事務員による事務処理がされ,同書士会の事務用品・事務消耗品等が任
意に使用され,同書士会と明確に区別されていない状況である。
日政連は,
日行連と連携して行政書士の社会的経済的地位の向上を期し,行政書士制
度の充実・発展と行政書士の権益の擁護を図り,行政の円滑な推進に寄与
するとともに,国民の福祉に貢献するために必要な政治活動を行うことを
目的として設立された権利能力なき社団であり,行政書士の社会的経済的
地位の向上,充実・発展を期するための政治活動,日政連と政策協定する
国会議員及び同侯補者を支持応援するための政治活動等を行うことを事業
内容としており,平成17年9月施行の衆議院選挙地方区で自民党議員を,
比例区で自民党議員,公明党議員を推薦し,その財政的基盤は,日政連各支部から上納される,単位行政
書士会会員1人につき1か月200円で計算される金額の
会費である。
(注)赤字部分は、裁判所が後日に、明白な誤りがあるとして「更正決定」を行い、訂正された後の文言です。
ウ 定期大会費用について
被控訴人書士会は昭和46年12月に設立され,昭和57年2月に被控
訴人県政連が設立される以前から,ホテルや旅館等で総会を行い,総会終
了後には懇親会を行った。被控訴人県政連設立後,被控訴人書士会の総会
(3時間ほど)の終了後に引き続き被控訴人県政連の定期大会(50分ほ
ど)を行い,その後,被控訴人書士会の主催で懇親会を行うようになった。
平成14年度の総会・懇親会費用は,総額72万3114円,そのうち
の会議費は15万0160円で,5万円を被控訴人県政連が負担したが,
被控訴人県政連名義の当該5万円の支出証ひょう書と被控訴人書士会名義
の当該5万円の領収書とを同一事務員が作成した(乙12の1)。
平成15年度の総会・懇親会費用は,総額が78万7738円,そのう
ちの会議費は8万9130円で,被控訴人県政連は5万円を負担したが,
被控訴人県政連名義の当該5万円の支出証ひょう書と被控訴人書士会名義
の当該5万円の領収書とを同一事務員が作成した。(乙13の1)。
平成16年度の総会・懇親会費用は,総額が76万0901円,そのう
ちの室料は2万円で,被控訴人県政連は4万円を負担したが,被控訴人書
士会の用紙を使用して被控訴人県政連名義の当該支出証ひょう書を作成し
た(乙14)。
平成17年度の総会・懇親会費用は,総額が96万8222円,そのう
ちの会議費は17万2200円で,被控訴人県政連は5万4220円を負
担した(乙15の1)。
エ 事務所賃料,光熱費
被控訴人県政連は,被控訴人書士会の事務所を使用し,平成16年度以
前,その費用を負担せず,その後,控訴人の指摘を受けて,被控訴人書士
会の事務所に関する経費の額(賃料月額10万円,同共益費5000円、
光熱費毎月平均1万5000円)のうち,月額5000円を支払っている。
オ 広報誌,印刷送付費等
被控訴人県政連は,被控訴人書士会の広報誌(会報〉に政治連盟に関す
る記事を掲載し,コピーを使用し,被控訴人書士会に対し,平成14年度
及び同15年度にコピー用紙代各1万円(乙12の2,13の2),平成
16年度に郵送料1万円(乙14),コピー用紙代1万円(乙14),平成
17年度のコピー用紙代8530円(乙15の2及び3),会報負担金1
万1254円(乙15の4)を支払った。
(2)控訴人は,被控訴人書士会の同県政連に対する支出は民法43条に反して
無効であり,また,被控訴人書士会が同県政連に加入していない控訴人に加
入者と同額の会費の支払を求めることは,控訴人の思想・信条の自由を侵害
し,憲法19条,民法90条に違反するから,被控訴人書士会会則18条及
び別表第1の会費規定は一部無効であると主張する。
ア 被控訴人書士会が政治資金規正法上の団体に金員の寄附をすることは,
たとい行政書士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するため
のものであっても,行政書士会の目的の範囲外の行為であり(最高裁平成
8年3月19日第三小法廷判決・民集50巻3号615頁参照),実質的
に金員の支出と同視できる行為もこれと同様に解すべきである。したがっ
て,被控訴人書士会が同県政連に対する金員の寄附と同視しうる行為をし
た場合,その行為は'同書士会の目的外の行為として違法・無効である。
しかし,仮に被控訴人書士会の同県政連に対する支出行為が違法・無効
であるとしても,この支出行為は,被控訴人書士会が会員から徴収した会
費のうちの一部につき具体的使途を定めて執行したにすぎず,これに相当
する金員を別途会員から徴収したり,徴収するとしたものではないから,
その違法・無効のために,会員の被控訴人書士会に対する会費支払義務の
一部又は全部が無効となることはない(最高裁平成5年5月27日第一小
法廷判決・集民169号57頁参照)。
そして,上記認定事実によれば,
事務所を平成16年以前無償使用していた点が違法であるほか,事務員の
事務処理等の区別がされていない点の違法があるが,同書士会の会則自体
に負担の直接の根拠となる規定は認められず,同会則に基づいて会費が徴
収された後に同書士会が負担を決定していると認められ,また,同会則に
おける会費の定めが上記負担のためにされたと認めるに足りる証拠もない
から,負担の違法が会則の違法・無効を来すことはないというべきである。
また,上記のとおり被控訴人書士会会則が違法・無効と認められない以
上,これに基づく会費の請求は,同会則に基づいて会員の義務の履行を求
めるものにすぎず,控訴人の意に反する思想の表明を強要することにはな
らないから,憲法19条・民法90条に反しない。
よって,被控訴人書士会会則中会費に関する規定の一部無効をいう控訴
人の主張は失当である。
イ 控訴人は,被控訴人書士会幹部が被控訴人らは表裏一体で車の両輸であ
る旨述べたから,人件費,事務所賃借料及び光熱費の負担割合を1:1と
すべき旨主張するが,被控訴人ら各自の事務量や事務所占有面積等,被控
訴人県政連の負担すべき費用割合を特定するに足りる証拠はなく,仮に控
訴人主張の発言があったとしても,それが単なる比喩にとどまらず,被控
訴人らの事務量が同等であるという趣旨を含むとは解されず,原審証人高
川泰延の証言に照らしても,控訴人の上記主張は理由がない。
ウ 当審における当事者の主張に対する判断
(ア)控訴人は,被控訴人県政連の財政が平成17年から急速に悪化し,平
成20年4月から会費を200円値上げしたのは,平成17年4月から
家賃を負担し始めたためであるから,上記値上げ分(月200円)は寄
附分に相当し,その部分の会費の定めは違法・無効である旨主張する。
しかし,上記値上げと事務所賃借料負担(年6万円)との関係は必ず
しも明らかでない。甲20ないし25によれば,平成15年の単年収支
は13万6467円の黒字であったが,平成16年の黒字額は3万39
65円にすぎず,他方,平成17年の赤字額は17万6002円,平成
18年は19万9488円と,いずれも上記賃借料負担を大きく上回り,
平成19年には単年赤字が4万3997円に減少していることが認めら
れ,また,支出額を見ても,平成16年の145万0840円に対し,
平成17年は157万8808円であるが,平成18年は147万66
99円で,平成16年との差は2万円強にすぎない。このような経過に
照らすと,同被控訴人の収支には上記賃借料負担以外の原因が強く影響
していると解され,同負担が直ちに財政悪化・会費値上げをもたらした
とは解しがたく,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ)控訴人は,被控訴人書士会の公共性等を根拠に,同県政連の事務所・
人員を同書士会から分離した場合との比較によるべきである旨主張する
が,そのように解すべき理由はない。また,被控訴人県政連の支払った
経費の金額・支払日が年によってまちまちであること等から直ちに負
担が不公正であるとはいえない。被控訴人県政連は,平成17年4月か
ら事務所賃料を負担しているのであり,平成14年から16年までこれ
を負担していないからといって,現在の会費規定の不当性を根拠付ける
ともいえない。
2 被告県政連への加入等の強要について(争点2)
(1) 証拠(甲1〜3,10〜14,34,36,証人高川泰延,控訴人本人)
及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
控訴人は,平成14年4月17日,あらかじめ被控訴人書士会の会費3万
6000円と被控訴人県政連の会費4800円を持参して支払うことなどを
要請する旨記載された書面による通知を受けて被控訴人書士会事務所で入会
面接を受けた際,同書士会総務部長から被控訴人県政連への入会勧誘を受け,
思想,信条が異なるとして入会しなかったが,その後被控訴人県政連の会費
振込書や郵便局の振替用紙を何回も送られ,2年分の県政連会費の請求を受
け,被控訴人県政連の会議の議案が3回送られ,国政選挙の際には特定侯補
者への投票を依頼するファックス送信があり,平成17年4月,被控訴人書
士会副会長であった笠野は,控訴人も立侯補した平成17年5月の被控訴人
書士会の会長選挙の所信表明において,被控訴人県政連の加入が自由である
からと言って数名が入会等せずに会費の徴収を拒否していると書面に記載し,
当選後の就任挨拶において,会員諸氏にはその辺をご理解いただき,月400円,年間4800円をお支払いただきたい,約80%強の会員諸氏が文句
を言わず支払っていただいており,残りの20%弱の方々にご理解,ご協力
をお願いしますと述べ,平成17年5月25日,被控訴人書士会綱紀委員会
副会長で被控訴人県政連会員であった河野重則は,被控訴人書土会総会終了
後,控訴人に対し,その直後に開催される被控訴人県政連の大会への出席を
要求し,被控訴人県政連へ加入しないなどと言うことは認められないと言い,
約40分間,控訴人と言い合いになり,被控訴人書士会綱紀委員会副委員長
兼被控訴人県政連副支部長であった山西一男は,被控訴人県政連に加入した
くなけれそれでよいから会費相当額を寄附するように言った。
(2) 上記1(1),2(1)の認定事実によれぱ,被控訴人県政連は,政治活動を行う
ことを目的に日本行政書士政治連盟(日政連)の下部組織として政治資金規
正法に基づき屈出された任意加入の政治団体であって,行政書士制度の充実
発展を期するための政治活動等を行うことを事業内容とし,特定政党を支持
しているところ,会務の運営上,被控訴人書士会との区別が明確でなく,ト
ップ役員である支部長が同書士会会長,副支部長が同書士会副会長等,同書
士会の役員がほとんどがそのまま役員となっており,同書士会の事務所内に
わずかな専用物品を置き,同書士会の事務員による事務処理がされ,同書士
会の事務用品・事務消耗品等が任意に使用され,同書士会と明確に区別され
ていない状況であり,強制加入団体である行政書士会と組織,会務の運営の
区別がされていない点において,違法,少なくとも,妥当でないというべき
であり,上記認定事実中,少なくとも,思想,信条が異なるとして被控訴人
県政連に入会しない態度を明確に表しているといえる控訴人に対してされた
頻回にわたる会費支払要求・会議の議案送付・平成17年5月25日の勧誘
は,その態様において,373名の会員中の15名というごく少数の入会拒
絶者に対し,組織,会務の運営の区別がされていない被控訴人書士会と被控
訴人県政連との双方からされたものとして,これを受けた控訴人に主観的に
強い圧迫感を与えるものであったと推認され,精神的苦痛を生じさせたとい
うべきであり,被控訴人書士会と被控訴人県政連との明確な区別の意識なし
に当該行為に至ったといえる点において,当該行為者に過失が認められる。
したがって,被控訴人らは,民法715条による責任を免れず,上記行為
態様等を考慮し,控訴人が受けたと考えられる精神的苦痛に対する慰謝料と
して5万円の支払義務を負うが,これを超える慰謝料支払義務を負わない。
なお,控訴人は,笠野の選挙公約は会員の名誉毀損に当たる可能性があっ
たから,被控訴人書士会がこれを指摘・是正すべき義務があった旨主張する
が,笠野の所信が控訴人の名誉を毅損しないことは,原判決の説示(「事実
及び理由」第3の4(2)イ)のとおりである。
3 反訴請求について
反訴請求原因(ア)及び(ウ)の各事実並びに(イ)記載の会則の定めはいずれも争いが
なく,会費支払義務がない旨の控訴人の反論が失当であることは上記1に認定
説示のとおりであるから,反訴請求は理由がある。
そして,本訴請求の会費支払義務不存在確認請求中反訴請求の対象に係る訴
えは,訴えの利益がない。
4 結論
よって,控訴人の本訴請求(当審で維持された部分)のうち,平成19年後
期及び平成20年前期の会費支払義務不存在確認請求に係る訴えは不適法であ
り,その余の債務不存在確認請求は理由がなく,慰謝料請求は前記の限度で理
由があり,その余は理由がなく,被控訴人書士会の反訴請求は理由があるから,
主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日平成20年9月3日)
大阪高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官 若林 諒
裁判官 小野 洋一
裁判官 久保田 浩史
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