控訴審判決(2008年11月12日大阪高裁。27日確定)


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さて、判決言渡しは10月31日のはずでした。ところが前日午後に書記官から電話があり、「裁判官がもう一度考え直したいと言っているので、明日の判決は11月12日に延びます」ということでした。
私は、裁判所が一度決めたことを変更するなんて、あるんだなあと思いましたが、「有利な方に見直してくれるのなら、大歓迎ですよ」と冗談混じりに答えました。まさか本当にそうなるとは思いもよりませんでした。

平成20年11月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(ネ)第1189号 債務不存在確認等請求控訴事件
同年(ネ)第1764号 会費請求反訴事件
(原審・和歌山地方裁判所田辺支部平成18年(ワ)第167号)

判決

和歌山県田辺市稲成町1074番地
控訴人・反訴被告(1審原告)佐々木香徳
(以下「控訴人」という。)

和歌山市九番丁1番地
被控訴人・反訴原告(1審被告)和歌山県行政書士会
(以下「被控訴人書士会」という。)
同代表者会長笠野義二

和歌山市九番丁1番地
被控訴人(1審被告)日本行政書士政治連盟和歌山県支部
(以下「被控訴人県政連」という。)
同代表者支部長笠野義二

上記2名訴訟代理人弁護士月山純典
同月山桂
同藤井友彦
同山本和正
同田中志保

主文

1 原判決を次のとおり変更する。

(1)被控訴人書士会に対する会費支払義務不存在確認請求のうち平成19年後期及び平成20年前期分に係る訴えを却下する。
(2)被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して5万円を支払え。
(3)控訴人のその余の請求を棄却する。

2 控訴人は被控訴人書士会に対し,7万2000円及びうち3万6000円に対する平成19年10月1日から,うち3万6000円に対する 平成20年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金 員を支払え。

3 反訴状貼用印紙の費用は控訴人の負担とし,その余の費用は,第1, 2審を通じこれを4分し,その3を控訴人の負担とし,その余を被控訴 人らの負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求める裁判

1 控訴の趣旨

(1)原判決中,被控訴人書士会に対する会費支払義務不存在確認請求及び被控 訴人らに対する慰謝料請求(被控訴人県政連への加入及び会費支払強要に基 づくもの)を棄却した部分を取り消す。
(2)控訴人と被控訴人書士会との間で,同被控訴人が平成13年7月17日施 行した同会会則第18条及び別表第1に基づく会費の支払義務が月額580 0円を超えて存在しないことを確認する。
(3)被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して20万円を支払え。
(4)訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

2 反訴請求(被控訴人書士会)

(1)主文第2項同旨
(2)反訴費用は控訴人の負担とする。

第2 事案の概要

 控訴人は行政書士であり,被控訴人書士会の会員である。被控訴人県政連は, 政治活動を行うことを目的に日本行政書士政治連盟(以下「日政連」とい う。)の下部組織として政治資金規正法に基づき届出された任意加入の政治団 体である。

本件は,控訴人が,
@被控訴人書士会は,同県政連の経費を負担することに より,会員から徴収した会費を実質的に同県政連に対する寄附に使用している から,上記会費の徴収は一部違法であり,控訴人はその支払義務を負わないと 主張して,その不存在確認を求め(原審「事実及び理由」の「請求」第1項),

A被控訴人書士会の違法な会費徴収及び使用により,同県政連は控訴人の損失 において利得したとして,同被控訴人に対して不当利得返還を,被控訴人書士 会は控訴人に違法に損害を与えたとして,同被控訴人に対して不法行為による 損害賠償をそれぞれ求め(同第2項),

B被控訴人書士会は,控訴人が同被控 訴人に支払った会費を同県政連の活動に使うことにより控訴人をその意思に反 する政治活動に組み込んだこと及び控訴人の立侯補を妨害するための役員選任 規則の改正によって,控訴人に精神的苦痛を与えたとして,不法行為に基づく 損害賠償を求め(同第3項),

C被控訴人書士会の代表者が,会長選挙の際及 び会長就任後に,控訴人の名誉を毀損するとともに被控訴人県政連への加入と 会費の支払いを強要し,被控訴人らの会員も,被控訴人県政連への加入と会費 の支払いを強要して精神的苦痛を与えたとして,被控訴人らに対し,不法行為 (民法709条,44条1項,715条,719条,723条)に基づく損害 賠償を求め(同第4項),

D被控訴人書士会が控訴人を排除する目的で役員選 任規則を違法に改正,施行したと主張して,改正の無効確認及び再改正を求め た(同第5項)事案である。

原審は,控訴人の訴えのうち,被控訴人書士会に対する役員選任規則無効確 認及び再改正請求に係る部分(上記D)を却下し,その余の請求をいずれも棄 却したので,これを不服として控訴人が控訴した。ただし,不服の対象は会費 支払義務不存在確認請求(上記@)及び名誉毀損,被控訴人県政連への加入・ 会費支払強制による損害賠償請求(上記C)のみであり,かつ,これらの各請 求は当審で減縮された。また,その余の請求に係る訴えは当審で取り下げられ た。

これに対し,被控訴人書士会は,当審で,平成19年後期及び平成20年前 期の会費及び遅延損害金の支払を求めて反訴を提起した。遅延損害金起算日は 各支払期限の翌日,率は民法所定の年5分の割合である。

前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決「事実及び理由」中「第2事 案の概要」の「1前提事実」「2主要な争点」「3当事者の主張」(ただ し,請求の趣旨第1,第4項に関する部分)記載のとおりであるから,これを 引用する。ただし,以下のとおり付加・補正し,当審における当事者の主張及 び反訴に係る主張を以下のとおり付加する。

1 付加・補正

(1)原判決5頁26行目の「現在の会費は月額400円である。」を「平成 20年4月に会費額がそれまでの月額400円から600円に増額され た。」に改める。
(2)同6頁20行目から7頁12行目までを削る。
(3)同12頁14行目末尾に「少なくとも,被控訴人書士会の援助が見直さ れた結果,被控訴人県政連の財政が悪化し,平成20年4月からその会費 を200円増額したことにかんがみると,被控訴人書士会の援助は会員一 人当たり200円であったと解されるから,同会会費規定は200円の限 度で無効である。」を加える。
(4)同頁18行目「3000円」を「58OO円」に改める。
(5)同15頁25行目「各々30万円」を「合計20万円」に改める。
(6)同18頁12行目「100名を超える」の次に「被控訴人書士会」を加 える。
(7)同20頁8行目「占有部分(」の次に「段ボール箱3箱程度。」を加え る。

2 当審における当事者の主張

(1)控訴人

ア 被控訴人書士会の同県政連に対する援助及びそのための会費使用の違 法性について

(ア)被控訴人県政連の財政は平成17年から急速に悪化し,2年連続で 赤字を計上して過去の繰越金を取り崩し,平成20年4月から会費を 400円から600円に200円値上げした。
これは,控訴人の指摘 を受けて被控訴人書士会による必要経費の肩代わりがなくなり,平成 17年4月から家賃を負担し始めたためであり,被控訴人書士会の援 助なくして同県政連の運営が成り立たないことを示している。
そうす ると,上記値上げ分(月200円)は,被控訴人書士会から同県政連 への寄附に対応するから,控訴人書士会の会費の定めのうち,これに 相当する部分は違法・無効である。

(イ)被控訴人書士会は公共性の強い法人であり,同県政連は公共性のな い政治団体であるから,営利団体同士の場合のように,事務量等に応じて 費用を負担しているかだけではなく,被控訴人県政連の事務所・ 人員を同書士会から分離した場合との比較によるべきである。
そして, 被控訴人県政連の固定経費は年間156万円程度(月額で家賃4万円, 人件費8万円,電話・光熱費1万円)必要であり,同被控訴人の年間 収入130ないし140万円ではこれにすら満たないから,被控訴人 書士会の寄附があると評価せざるを得ない。 被控訴人県政連の同書士 会に対する経費支払は,金額・支払日が年によってまちまちであり, 人件費の負担が長年据え置かれたままである等,公正なものとはいえ ず,平成14年から16年まで被控訴人県政連が家賃を全く負担して いないことからも,不当性は明らかである。

(ウ)被控訴人書士会の会則に被控訴人県政連への寄附が明示されていな くとも,会費規定を一部無効とすべきである。本件で寄附に当たる行 為は,少額の消極的支出(請求すべきものを請求しない)が長期間継 続しているのであり,これらをいちいち訴訟で請求することは不可能 である。また,行政書士法上,執行部の責任追及のための訴訟を認め る規定はない。

イ 名誉毀損及び加入等強要について

(ア)被控訴人書士会は,同会長選挙における笠野義二(以下「笠野」と いう。)の選挙公約が会員の名誉を毀損し,役員選任規則違反の可能 性があったことを指摘して是正すべき義務があった。

(イ)仮に被控訴人県政連への加入や会費支払を促す被控訴人らの行為が 強要に当たらないとしても,控訴人の明確な加入拒否にもかかわらず 加入扱いして文書を送付することは,控訴人の感情を害し,思想信条 の自由を侵害する。

(ウ)被控訴人書士会は,会報で,被控訴人らの会員数が同数であるとし て,控訴人が被控訴人県政連の会員であるかのごとく発表した。

ウ 反訴請求原因に対する認否・反論

(ア)同反訴請求原因(ア)(ウ)は認める。(イ)記載の会則は認めるが,支払義務 の範囲は争う。

(イ)被控訴人書士会の会費は,政治団体である同県政連に対する援助を 織り込んで決められた額であるから,その限度(月額200円。上記 ア(ア)の被控訴人県政連会費値上げに対応する分)で憲法19条,民法 90条に反し,無効である。

(2)被控訴人ら

ア 被控訴人書士会の同県政連に対する援助及びそのための会費使用の違 法性について

(ア)被控訴人らの間で明確に区別できない事務・費用があるため,被控 訴人県政連は同書士会に「負担金」を支払って応分の負担をしてきた。

(イ)被控訴人書士会が同県政連の事務所賃料等を負担したことが違法で あるとしても,これにより会費徴収規定が無効になるわけではない。
同規定は,特定の政治団体に寄附することを定めているわけでもなく, 憲法19条や民法90条に反しない。また,控訴人の会費納入と被控 訴人書士会による同県政連の費用負担との間には直接の結び付きはな く,控訴人の思想信条の自由に対する侵害にも当たらない。

イ 名誉毅損及び加入等強要について

(ア)被控訴人ら職員が控訴人に送付した被控訴人県政連の会費請求書及 び同県政連職員が送付した定期大会資料に威圧的な文言はなく,この ような文書が数回送付されても強要その他の違法行為には当たらない し,控訴人に精神的損害も生じない。

(イ)笠野は,会長立侯補の所信で,複数の被控訴人書士会会員が同県政 連の会費徴収を拒否していると述べたが,控訴人を名指しはしていな い。仮に笠野の発言が控訴人を連想させたとしても,控訴人は自ら立 侯補の所信で被控訴人県政連に加入していないことを明言していたか ら,上記発言は控訴人の杜会的評価を左右しない。さらに,笠野は, 被控訴人書士会役員として発言したのではないから,同被控訴人が不 法行為責任を負う理由はない。控訴人の主張イにいう是正の義務もな い。
なお,笠野は,被控訴人書士会会長・同県政連支部長就任後は上記 のような発言をしていない。

(ウ)被控訴人書士会・同県政連の河野らは,被控訴人書士会総会の会場 外ロビーで,控訴人に対し,被控訴人県政連に入会するよう勧誘した が,控訴人主張のように,控訴人を取り囲んで1時間近く会費相当額 の寄附を迫ったことはない。

ウ 反訴請求原因(被控訴人書士会)

(ア)被控訴人書士会は,和歌山県を区域とする行政書士会(行政書士法 15条1項)であり,控訴人はその会員たる行政書士である。

(イ)被控訴人書士会会員は,月6000円の会費納付義務を負い,前期 (4月1日から9月30日)分と後期(10月1日から3月31日) 分各3万6000円を各期の開始する日の前日までに納めなければな らない(会則18条)。

(ウ)控訴人は,平成19年後期及び平成20年前期分会費を支払ってい ない。

第3 当裁判所の判断

1 被控訴人らの癒着について(争点1)

(1)前提事実並びに証拠(甲1〜6,8,9,11,12,17〜22,24 〜26,37〜4・1,乙6,12〜22,証人高川泰延,控訴人本人)及び 弁論の全趣旨によれぱ次の事実が認められる。

 行政書士会は,会員の品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため, 会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的として,各都道府県に 1箇ずつ設立することを義務づけられた法人であり,全国の行政書士会に より設立された日本行政書士会連合会(日行連)は,行政書土会の会員の 品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,行政書士会及びその会員 の指導及び連絡に関する事務等を行い,行政書士の業務を行うためには日 行連に備える行政書士名簿への登録が必要であり,登録を受けた行政書士 はその事務所の所在する都道府県に設立された行政書士会の会員となり, 行政書士事務を継続する間,強制加入団体である行政書士会からの脱退の 自由を有しない。

 被控訴人書士会は,平成18年11月末日現在373名の会員を擁し (うち2名は廃業勧告対象者),その財政は会員から納入される会費で賄 われているところ,現在の会費は,月額6000円,会則に違反した会員 に対し必要な処分(訓告,1年以内の会員の権利停止,廃業勧告)を行う ことができ,会費滞納者に対して廃業勧告を行うときには,会費納入の催 告,綱紀委員会による業務継続の意思確認の手続を経ることとされている (会則90条の5第1項,2項)。

被控訴人県政連は,被控訴人書士会に加入している個人会員をもって構 成される組織で,政治活動を行うことを目的に日本行政書士政治連盟(日 政連)の下部組織として政治資金規正法に基づき届出された任意加入の政 治団体であって,行政書士制度の充実発展を期するための政治活動等を行 うことを事業内容としており,平成20年3月まで月額400円,同年4月から月額 600円の会費を徴収し,平成18年時点で少なくとも約370名の会員を擁しているが, 会員資格の定めが明確でなく,独自の会員名 簿を作成しておらず,被控訴人書士会会員のうち15名が被控訴人県政連 への入会を拒否して会費支払いを拒絶し,50名ないし100名の被控訴 人県政連会員が会費支払未納や延滞をしており,会務の運営上,被控訴人 書士会との区別が明確でなく,トップ役員である支部長が同書士会会長, 副支部長が同書士会副会長等,同書士会の役員がほとんどがそのまま役員 となっており,同書士会の事務所内にわずかな専用物品を置き,同書士会 の事務員による事務処理がされ,同書士会の事務用品・事務消耗品等が任 意に使用され,同書士会と明確に区別されていない状況である。

日政連は, 日行連と連携して行政書士の社会的経済的地位の向上を期し,行政書士制 度の充実・発展と行政書士の権益の擁護を図り,行政の円滑な推進に寄与 するとともに,国民の福祉に貢献するために必要な政治活動を行うことを 目的として設立された権利能力なき社団であり,行政書士の社会的経済的 地位の向上,充実・発展を期するための政治活動,日政連と政策協定する 国会議員及び同侯補者を支持応援するための政治活動等を行うことを事業 内容としており,平成17年9月施行の衆議院選挙地方区で自民党議員を, 比例区で自民党議員,公明党議員を推薦し,その財政的基盤は,日政連各支部から上納される,単位行政 書士会会員1人につき1か月200円で計算される金額の 会費である。

(注)赤字部分は、裁判所が後日に、明白な誤りがあるとして「更正決定」を行い、訂正された後の文言です。

 定期大会費用について

被控訴人書士会は昭和46年12月に設立され,昭和57年2月に被控 訴人県政連が設立される以前から,ホテルや旅館等で総会を行い,総会終 了後には懇親会を行った。被控訴人県政連設立後,被控訴人書士会の総会 (3時間ほど)の終了後に引き続き被控訴人県政連の定期大会(50分ほ ど)を行い,その後,被控訴人書士会の主催で懇親会を行うようになった。

平成14年度の総会・懇親会費用は,総額72万3114円,そのうち の会議費は15万0160円で,5万円を被控訴人県政連が負担したが, 被控訴人県政連名義の当該5万円の支出証ひょう書と被控訴人書士会名義 の当該5万円の領収書とを同一事務員が作成した(乙12の1)。

平成15年度の総会・懇親会費用は,総額が78万7738円,そのう ちの会議費は8万9130円で,被控訴人県政連は5万円を負担したが, 被控訴人県政連名義の当該5万円の支出証ひょう書と被控訴人書士会名義 の当該5万円の領収書とを同一事務員が作成した。(乙13の1)。

平成16年度の総会・懇親会費用は,総額が76万0901円,そのう ちの室料は2万円で,被控訴人県政連は4万円を負担したが,被控訴人書 士会の用紙を使用して被控訴人県政連名義の当該支出証ひょう書を作成し た(乙14)。

平成17年度の総会・懇親会費用は,総額が96万8222円,そのう ちの会議費は17万2200円で,被控訴人県政連は5万4220円を負 担した(乙15の1)。

 事務所賃料,光熱費

被控訴人県政連は,被控訴人書士会の事務所を使用し,平成16年度以 前,その費用を負担せず,その後,控訴人の指摘を受けて,被控訴人書士 会の事務所に関する経費の額(賃料月額10万円,同共益費5000円、 光熱費毎月平均1万5000円)のうち,月額5000円を支払っている。

 広報誌,印刷送付費等

被控訴人県政連は,被控訴人書士会の広報誌(会報〉に政治連盟に関す る記事を掲載し,コピーを使用し,被控訴人書士会に対し,平成14年度 及び同15年度にコピー用紙代各1万円(乙12の2,13の2),平成 16年度に郵送料1万円(乙14),コピー用紙代1万円(乙14),平成 17年度のコピー用紙代8530円(乙15の2及び3),会報負担金1 万1254円(乙15の4)を支払った。

(2)控訴人は,被控訴人書士会の同県政連に対する支出は民法43条に反して 無効であり,また,被控訴人書士会が同県政連に加入していない控訴人に加 入者と同額の会費の支払を求めることは,控訴人の思想・信条の自由を侵害 し,憲法19条,民法90条に違反するから,被控訴人書士会会則18条及 び別表第1の会費規定は一部無効であると主張する。

 被控訴人書士会が政治資金規正法上の団体に金員の寄附をすることは, たとい行政書士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するため のものであっても,行政書士会の目的の範囲外の行為であり(最高裁平成 8年3月19日第三小法廷判決・民集50巻3号615頁参照),実質的 に金員の支出と同視できる行為もこれと同様に解すべきである。したがっ て,被控訴人書士会が同県政連に対する金員の寄附と同視しうる行為をし た場合,その行為は'同書士会の目的外の行為として違法・無効である。

しかし,仮に被控訴人書士会の同県政連に対する支出行為が違法・無効 であるとしても,この支出行為は,被控訴人書士会が会員から徴収した会 費のうちの一部につき具体的使途を定めて執行したにすぎず,これに相当 する金員を別途会員から徴収したり,徴収するとしたものではないから, その違法・無効のために,会員の被控訴人書士会に対する会費支払義務の 一部又は全部が無効となることはない(最高裁平成5年5月27日第一小 法廷判決・集民169号57頁参照)。

そして,上記認定事実によれば, 事務所を平成16年以前無償使用していた点が違法であるほか,事務員の 事務処理等の区別がされていない点の違法があるが,同書士会の会則自体 に負担の直接の根拠となる規定は認められず,同会則に基づいて会費が徴 収された後に同書士会が負担を決定していると認められ,また,同会則に おける会費の定めが上記負担のためにされたと認めるに足りる証拠もない から,負担の違法が会則の違法・無効を来すことはないというべきである。

また,上記のとおり被控訴人書士会会則が違法・無効と認められない以 上,これに基づく会費の請求は,同会則に基づいて会員の義務の履行を求 めるものにすぎず,控訴人の意に反する思想の表明を強要することにはな らないから,憲法19条・民法90条に反しない。

よって,被控訴人書士会会則中会費に関する規定の一部無効をいう控訴 人の主張は失当である。

 控訴人は,被控訴人書士会幹部が被控訴人らは表裏一体で車の両輸であ る旨述べたから,人件費,事務所賃借料及び光熱費の負担割合を1:1と すべき旨主張するが,被控訴人ら各自の事務量や事務所占有面積等,被控 訴人県政連の負担すべき費用割合を特定するに足りる証拠はなく,仮に控 訴人主張の発言があったとしても,それが単なる比喩にとどまらず,被控 訴人らの事務量が同等であるという趣旨を含むとは解されず,原審証人高 川泰延の証言に照らしても,控訴人の上記主張は理由がない。

 当審における当事者の主張に対する判断

(ア)控訴人は,被控訴人県政連の財政が平成17年から急速に悪化し,平 成20年4月から会費を200円値上げしたのは,平成17年4月から 家賃を負担し始めたためであるから,上記値上げ分(月200円)は寄 附分に相当し,その部分の会費の定めは違法・無効である旨主張する。

しかし,上記値上げと事務所賃借料負担(年6万円)との関係は必ず しも明らかでない。甲20ないし25によれば,平成15年の単年収支 は13万6467円の黒字であったが,平成16年の黒字額は3万39 65円にすぎず,他方,平成17年の赤字額は17万6002円,平成 18年は19万9488円と,いずれも上記賃借料負担を大きく上回り, 平成19年には単年赤字が4万3997円に減少していることが認めら れ,また,支出額を見ても,平成16年の145万0840円に対し, 平成17年は157万8808円であるが,平成18年は147万66 99円で,平成16年との差は2万円強にすぎない。このような経過に 照らすと,同被控訴人の収支には上記賃借料負担以外の原因が強く影響 していると解され,同負担が直ちに財政悪化・会費値上げをもたらした とは解しがたく,控訴人の上記主張は理由がない。

(イ)控訴人は,被控訴人書士会の公共性等を根拠に,同県政連の事務所・ 人員を同書士会から分離した場合との比較によるべきである旨主張する が,そのように解すべき理由はない。また,被控訴人県政連の支払った 経費の金額・支払日が年によってまちまちであること等から直ちに負 担が不公正であるとはいえない。被控訴人県政連は,平成17年4月か ら事務所賃料を負担しているのであり,平成14年から16年までこれ を負担していないからといって,現在の会費規定の不当性を根拠付ける ともいえない。

2 被告県政連への加入等の強要について(争点2)

(1) 証拠(甲1〜3,10〜14,34,36,証人高川泰延,控訴人本人) 及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

控訴人は,平成14年4月17日,あらかじめ被控訴人書士会の会費3万 6000円と被控訴人県政連の会費4800円を持参して支払うことなどを 要請する旨記載された書面による通知を受けて被控訴人書士会事務所で入会 面接を受けた際,同書士会総務部長から被控訴人県政連への入会勧誘を受け, 思想,信条が異なるとして入会しなかったが,その後被控訴人県政連の会費 振込書や郵便局の振替用紙を何回も送られ,2年分の県政連会費の請求を受 け,被控訴人県政連の会議の議案が3回送られ,国政選挙の際には特定侯補 者への投票を依頼するファックス送信があり,平成17年4月,被控訴人書 士会副会長であった笠野は,控訴人も立侯補した平成17年5月の被控訴人 書士会の会長選挙の所信表明において,被控訴人県政連の加入が自由である からと言って数名が入会等せずに会費の徴収を拒否していると書面に記載し, 当選後の就任挨拶において,会員諸氏にはその辺をご理解いただき,月400円,年間4800円をお支払いただきたい,約80%強の会員諸氏が文句 を言わず支払っていただいており,残りの20%弱の方々にご理解,ご協力 をお願いしますと述べ,平成17年5月25日,被控訴人書士会綱紀委員会 副会長で被控訴人県政連会員であった河野重則は,被控訴人書土会総会終了 後,控訴人に対し,その直後に開催される被控訴人県政連の大会への出席を 要求し,被控訴人県政連へ加入しないなどと言うことは認められないと言い, 約40分間,控訴人と言い合いになり,被控訴人書士会綱紀委員会副委員長 兼被控訴人県政連副支部長であった山西一男は,被控訴人県政連に加入した くなけれそれでよいから会費相当額を寄附するように言った。

(2) 上記1(1),2(1)の認定事実によれぱ,被控訴人県政連は,政治活動を行う ことを目的に日本行政書士政治連盟(日政連)の下部組織として政治資金規 正法に基づき屈出された任意加入の政治団体であって,行政書士制度の充実 発展を期するための政治活動等を行うことを事業内容とし,特定政党を支持 しているところ,会務の運営上,被控訴人書士会との区別が明確でなく,ト ップ役員である支部長が同書士会会長,副支部長が同書士会副会長等,同書 士会の役員がほとんどがそのまま役員となっており,同書士会の事務所内に わずかな専用物品を置き,同書士会の事務員による事務処理がされ,同書士 会の事務用品・事務消耗品等が任意に使用され,同書士会と明確に区別され ていない状況であり,強制加入団体である行政書士会と組織,会務の運営の 区別がされていない点において,違法,少なくとも,妥当でないというべき であり,上記認定事実中,少なくとも,思想,信条が異なるとして被控訴人 県政連に入会しない態度を明確に表しているといえる控訴人に対してされた 頻回にわたる会費支払要求・会議の議案送付・平成17年5月25日の勧誘 は,その態様において,373名の会員中の15名というごく少数の入会拒 絶者に対し,組織,会務の運営の区別がされていない被控訴人書士会と被控 訴人県政連との双方からされたものとして,これを受けた控訴人に主観的に 強い圧迫感を与えるものであったと推認され,精神的苦痛を生じさせたとい うべきであり,被控訴人書士会と被控訴人県政連との明確な区別の意識なし に当該行為に至ったといえる点において,当該行為者に過失が認められる。

したがって,被控訴人らは,民法715条による責任を免れず,上記行為 態様等を考慮し,控訴人が受けたと考えられる精神的苦痛に対する慰謝料と して5万円の支払義務を負うが,これを超える慰謝料支払義務を負わない。

なお,控訴人は,笠野の選挙公約は会員の名誉毀損に当たる可能性があっ たから,被控訴人書士会がこれを指摘・是正すべき義務があった旨主張する が,笠野の所信が控訴人の名誉を毅損しないことは,原判決の説示(「事実 及び理由」第3の4(2)イ)のとおりである。

3 反訴請求について

反訴請求原因(ア)及び(ウ)の各事実並びに(イ)記載の会則の定めはいずれも争いが なく,会費支払義務がない旨の控訴人の反論が失当であることは上記1に認定 説示のとおりであるから,反訴請求は理由がある。
そして,本訴請求の会費支払義務不存在確認請求中反訴請求の対象に係る訴 えは,訴えの利益がない。

4 結論

よって,控訴人の本訴請求(当審で維持された部分)のうち,平成19年後 期及び平成20年前期の会費支払義務不存在確認請求に係る訴えは不適法であ り,その余の債務不存在確認請求は理由がなく,慰謝料請求は前記の限度で理 由があり,その余は理由がなく,被控訴人書士会の反訴請求は理由があるから, 主文のとおり判決する。

(当審口頭弁論終結日平成20年9月3日)

大阪高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官 若林 諒
裁判官 小野 洋一
裁判官 久保田 浩史